経営統合戦略の限界

 

このところ、素材メーカーの経営統合が相次いでいる。昨年12月、石油元売り大手のJXと東燃ゼネラルが来年4月をめどに経営統合すると発表した。この2月には、鉄鋼大手の新日鉄住金が日新製鋼を子会社化する計画を発表した。今回はこうした経営統合戦略の妥当性について考えてみよう。

 

マイケル・ポーターによると、業界内で各社が競争優位の獲得を目指す競争戦略には、①他社と違った製品を提供する差別化、②同性能・同品質の製品をより低コストで提供するコストリーダーシップ、③競争の範囲を限定する集中化の3つがある。一般に素材メーカーは、製品がコモデティ(規格商品)化されていて、差別化がしにくいため、コストリーダーシップが主体になる。

 

また素材は、製造に大型の装置を要する装置産業なので、コストの中でも規模の経済性が重要である。石油も鉄鋼も、国内需要が縮小しており、生産数量を拡大して規模の経済性を追求するのは難しい。したがって、同業者同士が経営統合して規模の経済性を追求するのは合理的な戦略だ・・・。

 

というのは、ビジネススクールで教える経営戦略論のロジックだ。このロジックによると、経営統合に踏み切った上記4社の戦略は正しく、統合に乗り遅れたコスモ石油や神戸製鋼所の戦略は間違っているということになる。

 

しかし、本当にそう簡単に言い切れるものだろうか。装置産業において、経営統合がコスト低減の効果が大きいことは間違いない。ただ、それと業界内で生き残れるかどうかは別問題だ。

 

差別化では性能・品質・ブランドなど色々な戦略変数があるのに対し、コストリーダーシップでは戦略変数はコストただ一つだ。差別化では何社かが勝者になりうるが、コストリーダーシップでは最も低コストの1社だけが勝者になる。

 

市場が国内で閉ざされていた時代なら、八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日鉄が誕生した時点で「勝負あり!」と言えた。しかし、グローバル市場で競争する時代では、究極的には世界ナンバーワンにならないと生き残れない。石油の場合はエクソンやシェルなどオイル・メジャーが、鉄鋼の場合はミッタルが圧倒的な規模を誇る。経営統合によるコストリーダーシップで勝とうとすると、エクソンやミッタルを上回るまで、グローバルに経営統合を繰り返すしかない。

 

JXと東燃ゼネラル、新日鉄住金と日新製鋼の経営統合は、公表資料など見る限り、国内の過剰設備や中国の低価格品といった国内市場の懸念材料に対応する“守り”が主眼のようだ。「今後も経営統合を続けて世界一になるぞ!」という覚悟は感じられない。つまり、最近の経営統合は、将来の衰退・滅亡を先伸ばしにしているだけで、事態を抜本的に打開できるわけでない。優れた戦略どころか、なんとも中途半端な戦略である。

 

経営統合によるコストリーダーシップに限界があるなら、差別化か集中化を選択するべきだ。大手が見向きもしないニッチセグメントへの集中化は、中小企業にとっては有効だが、石油・鉄鋼のようなビッグビジネスの選択肢にはなりにくい。とすると、改めて「困難」とされる差別化にどう挑むか、という話しになる。

 

関満博らは、差別化をさらに進めて“特殊化”を提唱している。特殊化とは、他社と違っているというだけでなく、「わが社でしか作れない」という製品で勝負することだ。たとえば、神戸製鋼所の自動車用弁ばね用線材は、エンジン内のシリンダの動きを支え、1分間に数千回もの伸縮に耐えうる非常に高い品質が求められる製品で、世界シェア50%を誇る。

 

差別化あるいは特殊化に対して、素材メーカーの経営者からは「もともと差別化が難しいからコスト競争をしているのだが・・・」という反論がありそうだ。たしかにその通りだが、特殊化が無理というなら、いよいよ「打ち手なし」である。決定的に経営状態が悪化しない内に、石油・鉄鋼業から撤退し、業種転換する方が良さそうだ。幸い、石油・鉄鋼メーカーは大都市圏に広大な工場用地を持っているから、ユニバーサル・スタジオ・トーキョーとかに転用するのは妙案だと思う。

 

経営統合を繰り返して世界最大の企業になるか、特殊化を目指すか、業種転換するか、素材メーカーは究極の選択を迫られていると言えよう。

 

(日沖健、2016年2月29日)