出光・昭和シェルの統合効果は疑問

先週、石油元売り2位の出光興産と5位の昭和シェル石油が経営統合に向けた協議に入ると発表した。国内需要の減少に対応し、合理化を進めて生き残りを図るのが経営統合の狙いだ。実現すると、単純合算で業界首位のJXとほぼ同じ売上高になり、石油業界は2強時代になる。

いま、石油業界では、需要減少への対応が待ったなしの状況にある。人口減少・エコカーの普及・車離れ・地方の衰退などによって、ガソリン需要は2014年に5,355万キロリットルと、十年前と比べて17%も落ち込んでいる。各社とも1990年代以降、合理化努力を続けているが、需要減少のスピードが想定以上に速く、精製設備・給油所の過剰が深刻になっている。

こうした厳しい経営環境を踏まえて、今回の経営統合は、両社だけでなく、業界全体の合理化・収益改善に繋がるという期待は大きい。しかし、記者発表を見る限り、本当に大きな成果が実現するのか悲観的にならざるを得ない。

第1に、製油所の閉鎖やブランドの統合といった統合後の施策を否定しているのが気になる。

両社は、製油所の配置が重なっておらず、製品融通による補完効果が見込めるので、製油所を閉鎖する必要はないとしている。また、地方の小規模ディーラーが多い出光と都市部の大規模ディーラーが多い昭和シェルでは、ブランドを統合する必要性は薄いと判断しているようだ。これだけ聞くと、二つあった会社が単純に一つになるというだけで、実体は何も変わらないようだ。

両社は経営統合によって年間1千億円の合理化効果が見込めると説明するが、製品の融通やコスト削減など1990年代からすでに取り組んでいることだ。ビジネスの実体を変えずにさらに1千億円の合理化効果があるというのは、説得力に欠ける。両社は製油所が重なっていないというが、関東地区と東海地区には両社の製油所があり、製油所閉鎖の余地はある。「人が資本」の出光が乗り気しないであろう人員削減を含めて、思い切った合理化策を今後詰めていく必要があるだろう。

第2に、昭和シェルが対等合併に強い拘りを見せているのも、不安要素だ。

対等合併というのは日本独特の意味不明な概念で、法的にも実質的にも、どちらかが買収会社(存続会社)、もう一方が被買収会社(消滅会社)になる。今回の経営統合も、実質的には親会社のロイヤルダッチ・シェルから見放された昭和シェルを出光が救済合併するという構図なのだが、昭和シェルのプライドと出光の遠慮から、毎度おなじみの日本的な光景になっている。

日本石油(現JX)が三菱石油やジャパンエナジーとの合併で明確に主導権を握って強引に統合作業を進めたように、合併による合理化効果を実現するには、主導権を明確にした方が良い。とりわけ、独特な精神文化の出光と外資系の昭和シェルでは、社風など大きく異なることから、スピーディに統合作業を進めることができるかどうかが、成果実現のカギを握る。日本石油がそうだったように、出光・昭和シェルも、対等合併などという戯言は、記者会見の席だけにして欲しいものである。

以上から、現時点では、経営統合が両社を、石油業界を大きく変えるというのは期待薄だ。両社には、こうした外野の声を受け止めて思い切った経営改革を進め、悲観論を裏切ってほしいものである。

それにしても、石油業界の構造改革は、第2次オイルショック後の1980年代に始まったから、かれこれ30年も続いていることになる。自社が精製・販売網の合理化をすると他社を利するだけなので、誰も率先して合理化に取り組まないというゲーム理論の「囚人のジレンマ」の状況になっている。鉄鋼や紙パルプといった他の素材産業もよく似た状況だ。

この状況を抜本的に変えるには、経済産業省が音頭を取るか、(違法だが)合理化カルテルを結ぶしかなさそうだ。石油業界では、精製設備の削減など合理化策が経済産業省によって進められている。高度成長期に国の庇護を受けて成長した業界が老後も国に面倒を見てもらうというのは、何とも悲しい現実である。せめて、国内の合理化を進めた後のグローバルな事業展開では、各社が主体的に戦略を推進してほしいものである。

(日沖健、2015年8月3日)