トヨタの新型株は問題が多い

トヨタが個人投資家を向けの新型の種類株を導入することを表明し、注目を集めている。

「AA型種類株式」という名づけられた新型株は、価格は市場で売買されている普通株より2割ほど高くするが、普通株より有利な配当を支払い、取得から5年が過ぎれば、普通株に転換するか、トヨタに発行価格で買い取ってもらうことができる。投資家にとっては事実上の元本保証となる。株主総会での議決権など、通常の株主の権利は付与される。フランスには2年以上株式を保有すると議決権が2倍になるという制度があるが、上場会社の株式に譲渡制限が付されるというのは、世界的に珍しい試みである。

トヨタは、個人投資家の持ち株比率が1割程度と、東証1部の平均約14%よりも低い。新型株によって、長期安定保有してくれる個人株主を増やし、エコカーの開発など長期投資を進めていくと狙いを説明している。

明日6月16日に開催される定時株主総会で3分の2以上の賛成が得られれば、7月から導入される。個人投資家を中心に新型株を歓迎する声が多いようだが、先日アメリカの投資助言会社、ISSが導入反対を表明しており、予断を許さない状況だ。

個人的には、今回の新型株は実に問題が多く、トヨタのような日本を代表する企業が導入するのをぜひ回避してほしいと願っている。

近年、東京市場では外国人投資家の存在感が増している。外国人投資家も色々だが、とくに取引量が膨張しているのは短期筋である。短期筋の外国人に押されて、長期で保有する個人投資家の割合は年々減少している。株主構成が多様化するという点では、個人投資家の比率がアップするのは好ましいことだ。

ただ、企業が「個人株主が増えてほしい」と願うのは勝手だが、結果としてそうなるべきものであって、無理やりそういう状態を作り出すのは問題だ。

個人株主を増やす理由について、個人株主の多様な意見を経営に取り入れたい、トヨタ車のファンを増やしたい、といった理由を挙げることができる。しかし、5年間売却できないという制度設計から透けて見えるのは、「ひとたび買ったら黙って保有し続けてくれる、大人しい株主が増えてほしい」という本音である。

理由のいかんに関わらず保有し続けてもらおうというのは、相手こそ違えど、持ち合いと何ら変わらない安定化工作だ。国際的な批判を受けて、この6月からコーポレートガバナンス・コードで日本企業が持ち合い解消に動き始めたことと、真っ向から反する挑戦的な動きだ。

株式市場では、ウォールストリート・ルールという有名な原則がある。株価が上がれば株主は株式を購入・保有し、株価が下がれば売却する。株価の下落は、株主が業績に満足していないことを意味し、経営者は株価が下がらないように良い経営をしようと努める。株主が株を売却する行動が結果的に経営者を規律づけるというのが、ウォールストリート・ルールの意味するところだ。

最近、日本では、社外取締役を起用して経営を監視しようという制度型ガバナンスを強化する動きが活発だ。しかし、ガバナンスの基本はあくまでウォールストリート・ルールに代表される市場型ガバナンスで、市場ガバナンスでは目が届きにくいところを制度型ガバナンスで補うのが本来の姿である。

トヨタの新型株では、まずい経営をして、株価が低迷しても5年間売却されないので、ウォールストリート・ルールが機能しない。コーポレートガバナンスを著しく軽視した政策というより他ない。トヨタがやるべきことは、個人投資家を無理やり増やそうという奇策ではなく、個人株主でも買いやすいように売買単位を引き下げることや個人投資家にも理解しやすいIR情報を提供することだ。

トヨタが新型株を導入すれば、頭を使いたがらない日本の経営者は、右へ倣えでトヨタに追随することが懸念される。明日の注目の株主総会で、トヨタ株主の良識が示されることを期待したい。

(日沖健、2015年6月15日)