ふるさと納税の本当の効果

このところ、ふるさと納税が話題になっている。ふるさと納税とは、国民が任意の地方自治体に寄付することにより、寄付した額のほぼ全額の住民税が税額控除される制度である(2008年制定)。国民が居住地ではなく、好きな自治体に納税できるというわけだ。

一部の自治体が寄付を集めるために競って豪華な特典を提供するようになり、その過熱ぶりが問題視されるようになっている。寄付額の7割を超える還元を実施している過激な例もあるようだ。ふるさと納税の特産品を特集する雑誌や専門サイトまで見かけるようになった。ヒートアップする還元競争は、明らかにふるさとを応援するという制度の主旨からはかけ離れている。

ふるさとに寄付し、居住地ではそのほぼ全額が控除されるから、2つ自治体の合計では、収入はほぼゼロサムである。寄付を獲得するために特典を提供するので、特典の特産品を扱う業者が潤うだけで、意味のないバカ騒ぎだ、という見方をすることができる。

また、法理論的に見ても、行政サービスを受ける住民が税を負担するべきだという「受益者負担の原則」から逸脱している。寄付を受ける自治体が住民以外からの寄付を頼りに財政を運営するのは不健全だし、寄付をする人が住む自治体では税収が減って行政サービスが低下してしまう懸念がある。

こうした問題点を並べると、「ふるさと納税を縮小(廃止)するべきでは?」という最近の議論に発展するのは致し方ないところだ。鳴り物入りの制度だったが、四面楚歌という感じで、制度の雲行きが怪しくなってきた。

ただ、問題点が多いものの、個人的には、地方自治のあり方を変えるという点で、なかなか画期的な制度ではないかと思う。

いま、多くの地方自治体は、末期的な状況にある。住民人口の減少、高齢化、工場・商店の移転・縮小によって税収が減少している。一方、よく「3割自治」と言われるように、地方税など自前の財源は歳入全体の約3割で、残りの7割は地方交付税・国庫補助金といった国からの支援で賄ってきたが、国も深刻な財政難で、地方交付税などは絞られていく。

いまのところ、財政再建団体に転落したのは夕張市だけだ。しかし、全国で多くの自治体が財政破たんの危機に直面している。昨年公表された元総務相の増田寛也・東大客員教授らの試算によると、2040年までに全国の自治体の半数が消滅するという。財政破たんの危機から脱するには、各自治体が大胆な改革を進めなければならない。

無駄な歳出もなくはないだろうが、歳出削減には限界がある。やはり改革の主眼は、今後縮小する歳入と住民数を増やすことである。日本全体では税収も人口も減るという状況では、他の自治体から奪い取っていくしかない。つまり、自治体は生き残りを賭けた大競争時代に突入したのだ。

ふるさと納税によって、自治体の意識が大きく変わるかもしれない。黙って指をくわえていれば、税収を他の自治体に持って行かれてしまう。口を空けて待っていれば国が助けてくれるという依存心を捨て、他の自治体から税収を奪うために、闘争心をむき出しにして戦う必要がある。もはや「えげつない」「住民不在だ」などとお行儀の良いことを言っている場合ではないのだ。

ふるさと納税は、経済的にはあまり意味がないが、自治体の眠っていた闘争本能に火を点けるのが、最大の効果だ。「納得の行かない制度だ」と冷静に距離を置くのか、闘争心をむき出しにして競争に参加するのか。自治体の姿勢が問われている。

                                       (日沖健、2015年3月23日)