日本企業の意思決定に重大な欠陥

 

最近のニュースの中で、個人的にたいへん気になったのが2つ。

 

一つは、予備校大手の代々木ゼミナールが全国27か所で展開していた予備校を7校まで減らし、大幅に事業を縮小するという戦略転換。もう一つは、近鉄百貨店が旗艦店である「あべのハルカス」に入る本店の平成27年2月期の売上高目標を大幅に下方修正し、全面的にテコ入れをすることになったことである。

 

代々木ゼミナールは、かつては河合塾・駿台予備校と並んで「3大予備校」と呼ばれたが、生徒数の減少で苦境に追い込まれていた。生徒数の減少は、少子化で受験生の数が減る一方、大学の数は増え続けた結果、「大学全入時代」になり、浪人生が激減したことによる。景気悪化で国立大学の理科系の人気が上がったことも、私立大学の文科系に強みを持つ代々木ゼミナールには響いたようだ。

 

というマスコミの解説はもちろん間違っていないが、少子化は過去30年以上、景気悪化も過去20年以上、何度も繰り返し言われてきたことだ。乳児器具大手のピジョンがいち早くグローバル化に舵を切ってこの4期連続で最高益を更新している例、あるいは同じ業界でも東進ハイスクールが現役生向けのWeb授業で躍進している例などを見ると、外部環境の悪化よりも、長く戦略転換できなかった経営陣の意思決定により大きな問題がありそうだ。

 

1980年代後半、「日東駒専」などという言葉が流行ったように、首都圏の私立大学が人気を集めた。代ゼミは私立大学バブルに乗って、急速に事業を拡大した。その成功体験があまりに強烈だったので、環境変化に対する適応能力が失われてしまったということだろう。

 

近鉄百貨店については、代ゼミとは少し違った意思決定の問題がある。「あべのハルカス」に入る本店については、後講釈ではなく、以前から誰もが懐疑的だった。大阪にいる私の友人は、「賭けができるなら、全財産を失敗に賭ける」と断言していた。

 

そもそも大阪地区では、商圏人口が減少に向かう中、梅田にJR三越伊勢丹が登場し、一番店の阪急百貨店が大増床をするなど、オーバーストア状態が深刻化していた。そこへ、ショッピングエリアとして梅田・ミナミよりはるかに格落ちする阿倍野に大型店を出店するのは、突飛な逆張り投資にしか見えなかった。今回、今年春の全面開業から半年足らずで戦略を見直すことになったのは、当初計画がいかにずさんだったかを物語っている。

 

近鉄百貨店が出店を決定した経緯の詳細はわからないが、担当者から市場・競合について楽観的な見通しが示され、「あまり真剣に検討すると、何も決められなくなるから」と大した検討をせず、勇ましい計画が承認されたのだろう。そして、JR三越伊勢丹の苦戦のような不都合な事実や「絶対こける」という世間の声は届かず、実際にこけるまで軌道修正されることはなかった。

 

代ゼミと近鉄百貨店の失敗は、日本企業における戦略的意思決定の問題点を象徴しているように思う。代ゼミの失敗は、環境が変化してもなかなか戦略を決められないという問題、近鉄百貨店の失敗は、勢いだけで決めて、いったん決めたら変えられないという問題である。

 

こうしたお粗末な意思決定が行われた原因としては、経営者に市場の声が届いていないか、届いていたが経営者が無視してしまったか、ということになる。ただ、市場の声といっても、特殊な調査をしなくても常識でわかることだから、後者の経営者が市場の声を無視したというのが真因であろう。両社は、なぜ経営者がなぜ市場の声を無視したのか、経営者をコントロールする力が働かなかったのか(いわゆるコーポレートガバナンス)、といった点を早急に確認する必要があるだろう。

決められない、勢いで決めて軌道修正できない、日本の企業に見られる問題点だと思う。両社のニュースを聞いて「ああ、たいへんだなぁ」ではなく、自社の意思決定にどのような問題があるのか、ぜひ振り返って欲しいものである。

(2014年9月1日、日沖健)