「女性の活用」から「女性の活躍」へ

 

先週、シンガポールに旅行で行った際、友人のJosephine Teoさんのご家庭にお邪魔した。Josephineさんはかつて日本の商社のシンガポール現法に勤めた後、3年前に退職・独立し、現在、化成品の貿易会社を経営している。会社はまだ従業員が4名と小さいが、マレーシアに支店を出し、オーストラリアにも進出する予定で、順調に成長している。

 

彼女のご家庭を訪問するのは2度目だったが、改めて色々と驚かされた。郊外の推定3億円の広々とした豪邸に住み、夫の母親と同居し、一番上は21歳から一番下は4歳まで5人の子供を育てている。2人の家政婦(インドネシア人)を雇っているとはいえ、仕事と家庭を両立させていることには敬服する。

 

シンガポールの合計特殊出生率は1.2と日本よりも少子化が深刻で、Josephineさんのような大家族は珍しい。女性の起業家もそれほど多いというわけではない。彼女は例外的な存在で、「シンガポールのスーパーウーマン」と言えようか。ただ、同じく少子化が進み、女性の活躍が期待されている日本にとって、参考になる点がありそうだ。

 

日本ではこのところ、国を挙げて「女性の活用」を叫んでいる。従来、結婚・出産を機に仕事を離れることが多かった女性に引き続き仕事を続けてもらうよう、さまざまな取り組みが進められている。

 

それ自体は結構なことだが、どうも印象としては、「少子化で男性の労働力が減り、人手不足になっているから、ここは女性に手伝ってもらおう」という発想が強いようだ。単なる言葉の問題かもしれないが、暇そうな女性をもっと活用しましょう、という「女性の活用」よりも、女性が活躍して新しい社会を作っていこう、という「女性の活躍」の方がしっくり来るのではないだろうか。

 

とくに期待したいのが、女性の起業だ。日本では、アメリカなど諸外国に比べてそもそも起業が少ないが、その中でも女性の起業が少ない。そして、数少ない女性が始めた企業も、大きく成長して世の中を変えることは稀だ。女性が始めた企業でビッグネームになったのは、南場智子氏が創業したディー・エヌ・エーくらいで、大半は零細企業にとどまっている。

 

普通の会社勤めでは、なんだかんだで長時間労働が要求されるので、どうしても女性に不利な面がある。しかし、起業に関しては、男性に比べて不利な条件はそれほどないはずだ。ITの普及・発達も、勤務時間に制約されないという点で、女性の起業には追い風だ。にもかかわらず、女性の起業が少ないのは、女性の意識や政策支援に問題があるということだろう。

 

女性の起業では、家事関係や健康・趣味といった生活者に近いところで事業を展開することが圧倒的に多い。生活感覚の低い男性よりも、ビジネスチャンスに巡り合う可能性は高い。起業のチャンスを掴むという点については、男性よりも女性の方が優位だろう。

 

ただ、生活感覚が高いというのが曲者で、ビジネスの発展を阻害してしまうこともある。女性は生活者のことを真剣に考えるので、現状の生活者の意識を超越した大胆なアイデア・行動を生み出しにくい。また、家計を預かる主婦の懐事情を考慮して製品・サービスを不当に安く販売してしまい、売れているのに収益性が高まらないという状況になりがちだ。

 

女性が起業し、事業を大きく育てるには、生活感覚を持ち、それを武器にしながらも、生活感覚にとらわれ過ぎず、大胆に事業展開することが大切だ。

 

現在、日本の女性活用のための政策支援は、託児所の増設など子育て支援が中心である。それはそれで着実に推進すべきだが、女性に負わされている家事は育児にとどまらず、実に多岐に渡る。この負担を軽減し、ビジネスで活躍してもらうには、3世代同居を推進するか、シンガポールのように海外からの家政婦の導入を進めるのが、有効な方策だと思う。

 

女性がどんどん起業に挑戦し、社会を変える主役となること、「女性の活用」から「女性の活躍」へと進んで行くことを期待したいものである。

 

(日沖健、2014年8月25日)