安定した利回りには価値がある

 

先週水曜日、4-6月のGDP速報値が公表された。4月の消費税増税の影響が注目されたが、実際に、前四半期比で年率換算6.8%減という大きなマイナスになった。東日本大震災の2011年3月以来の大きな落ち込みだという。1-3月が駆け込み需要の影響で6.1%という高い伸び率だったが、結果は「行って来い」だったということになる。

 

問題は、次の7-9月だ。麻生財務相は7-9月のGDPを見て来年の消費税再増税を判断すると明言しており、大いに注目が集まる。

 

悩ましいのは、7-9月は「4-6月の反動減の反動」が影響し、景気の実態を見極めるのが難しいことだ。1-3月に高成長だった反動で4-6月が大幅減だったのと同じロジックで、4-6月に落ち込んだ反動で7-9月は何もなくてもかなりの高成長がになるのだ。

 

少し気の早い話しだが、仮に7-9月が年率5%以上なら、増税の反動減から回復ししっかりした景気回復、2%を下回るようなら景気は腰折れという解釈になろうか。問題は、3-4%くらいの中途半端な数字が出てきた場合だ。この場合、景気が本当に回復しているのか解釈が難しく、増税判断では大いにもめることになりそうだ。

 

ところで、上にも少し書いた通り、6.1%伸びた1-3月と6.8%減った4-6月で「行って来いだった」とよく言われている。短期間の話しなら大きく間違ってはいないが、投資家の人たちは、「行って来い」ではないと認識する必要がある。どういうことか。

 

ここでクイズ。

 

100の元本で資産運用をスタートした投資家の運用成績が、1年目にプラス50%、2年目マイナス50%、3年目にプラス50%、4年目にマイナス50%と繰り返したら、10年後、元本はいくらになっているだろうか(複利計算)。

 

「プラス50%が5回、マイナス50%が5回だから、行って来いで100のままだろ」というのは大間違い。答えは、なんと23.7、元本は4分の1以下に激減してしまう!

 

数字に明るい人ならすぐ納得してもらえると思うが、1年目は元本100を50%で運用するので150になり、2年目は150という大きくなった元本に対してマイナス50%なので、75に減ってしまう。小さな元本に対するプラスの利回りよりも、大きな元本に対するマイナスの利回りの方がより大きく効いてしまう。これを長期間繰り返すと、実に大きなマイナスの複利効果が働くわけだ。

 

かつてアインシュタインは「複利は人類最大の発見」と述べたという。これも複利のマジックの一つである。

 

50%というのはちょっと極端なので、プラス10%とマイナス10%を10年間繰り返した場合はどうなるか。答えは95.1で、50%の場合ほど悲惨ではないが、やはり元本を減らしてしまう。

 

利回りがプラスで資産が増えていく場合でも、基本は同じだ。100の元本を毎年20%で10年間運用する場合(A)と0%と40%を繰り返す場合(B)ではどうか。Aは619.2、Bは537.8と大きな差が付き、利回りの変動が小さい方が勝る。

 

以上のことからわかるのは、利回りの変動は資産価値にマイナスに働くということだ。

 

ファイナンスでは、収益の変動のことをリスクと言う。日常用語でリスクは「危険性」だが、ファイナンスではリスクを小さくすることは、たんに危険を減らすというだけでなく、投資価値を高める効果があるということだ。

 

資産運用だけでなく、企業での設備投資でも、我々はより大きな利回りを獲得することをまず考える。しかし、この簡単な説明からわかるように、投資家や経営者は、いかに収益の変動(リスク)を低下させるかについても知恵を絞る必要があるのだ。

 

(日沖健、2014年8月18日)