法人税減税の進め方

 

安倍政権は、6月に公表したアベノミクスの成長戦略で、向こう数年かけて法人税の実効税率を20%台に引き下げることになった。

 

日本の法人税の実効税率は約38%とアメリカに次いで世界で最も高い。民間投資を促し、海外から対日投資を呼び込むには、税率引き下げは必須だ。シンガポール(17%)のように20%以下まで引き下げるのは難しいとしても、欧州主要国と比べて遜色のない20%台半ばまで引き下げる必要がある。

 

遅ればせながら、法人税率引き下げの道筋が付いたのはたいへん喜ばしい。ただ、問題は、実現に向けた今後の進め方である。法人税を1%引き下げると約5000億円の財源が必要になると言われる。10%引き下げるなら5兆円だ。ただでさえも危機的な財政状況の中、どのように代替財源を確保するか、困難な決定・調整を迫られる。

 

代替財源として現在検討されているのは、政策的な減税措置の縮小である。先週、政府は特定の産業・企業を税優遇で支援する政策減税のうち2014年度末に期限が来る措置を原則、廃止・縮小する検討に入った。中小企業の税負担を軽くしている特例措置や、一部の設備投資減税など見直しによって、数千億円の財源を確保できるという。

 

優遇措置の多くは、すでに既得権益化し、ばらまき政治の温床になっている。ぜひこの機会に思い切って縮小・廃止を進めて欲しいものである。

 

もう一つ、これに関連して注目したいのは、日本では全法人の約7割が赤字で法人税を支払っていないという事実だ。日頃はさまざまな公共サービスを受けながら、3分の1未満の企業しかその財源を負担していないというのは、異常事態だ。売上高や従業員数などに応じて課税する外形標準課税に近い税制へと変更し、課税ベースを広げることが必要だ。

 

外形標準課税に近い法人税制にすれば、税収が増えるだけでなく、本来淘汰されるはずだった不良企業がきちんと淘汰されるようになる。日本経済の構造改革が大いに進展することだろう。

 

しかし、優遇措置の縮小・廃止や外形標準課税の導入には、中小企業や国民から強い反発がある。法人税率引き下げで負担が減るのは、現在法人税を払っている大企業であるのに対し、優遇措置の縮小・廃止や外形標準課税によって中小企業の負担が増す。政権発足から1年半が経って支持率など陰りが見える安倍政権が、「大企業優遇」という感情論にどこまで抗し切れるか注目したい。

 

優遇措置の縮小・廃止と外形標準課税の導入は、是非実現して欲しいところだ。しかし、個人的には、法人税の代替財源としていま議論するのは適切でないと思う。

 

なぜなら、大騒ぎになり、中小企業・国民から猛反発を食う割に、確保できる税収は限られるからだ。企業が生む付加価値に5%くらい一律課税するような思い切った外形標準課税を導入できれば話しは別だが、優遇措置をチョロっと見直すくらいでは。税収増はせいぜい1~2兆円、法人税率で2~4%分にしかならない。

 

そもそも、法人税の負担を少なくして国際競争力を高めようと議論をしているのに、法人税の別の部分で増税して辻褄を合わせようというのは、やや論理が矛盾している。税率引き下げによって国際競争力が増せば課税ベースが拡大するので、それによる税収増を代替財源と考える柔軟な発想も必要ではないだろうか。

 

もちろん、それだけでは財源に穴が空く。そこは、本腰で歳出削減に取り組むべきだ。とくに、無抵抗に増え続ける年金・医療など社会保障費の抑制に、一刻も早く取り組んでもらいたいものである。

 

法人税を所管する財務省や自民党税調は、どうしても自分たちがコントロールできる税金の世界で問題を解決しようとするが、それでは限界がある。ここは、安倍首相が大局的見地に立って、法人税減税と社会保障改革にセットで取り組んでほしいものだ。

 

優遇措置の縮小・廃止と外形標準課税の導入が進むかどうか、その過程で社会保障改革が進むかどうかで、今後数十年の日本の進路が決まると思うのである。

 

(日沖健、2014年8月4日)