実践的な研修の落とし穴

同業のコンサルタントには、私と同じようにコンサルティングだけでなく、企業研修の講師業務をしている人が多い。そういうコンサルタントは、ほぼ100%「コンサルティングが格上、研修は格下」と認識し、研修講師を担当するとき、できるだけコンサルティングに近い実践的な内容で実施しようとする。

 

知り合いのあるコンサルタントは、「俺はあくまでコンサルタントだ。研修のための研修はやらない」と言い切る。基本的な概念・理論を紹介する講義など“研修のための研修”の部分は大胆に割愛し、ワークショップ形式で、受講者に実際の事業プランを策定させたり、受講者を顧客調査に行かせて報告させたりする。いわゆるアクションラーニングである。

 

そういう実践的な研修が当たって、研修から新しいヒット商品が生まれたりすることがある。そういう実績が生まれると、顧客企業からは「さすが〇〇先生、ただ教えるだけの研修講師とは違いますね」と称賛される。こうして実績を上げ、マスコミでも取り上げられ売れっ子になったコンサルタントは多い。

 

しかし、こうした実践的な研修が研修のあるべき姿なのかというと、たいへん微妙だ。最終的に顧客企業が満足すれば外野がとやかく言う必要はないのかもしれないが、個人的には実践的な研修に引っかかるものを感じる。

 

まず、実践的な研修が成功して経営改革の成果が生まれる確率は非常に低いという現実がある。私も研修なのかコンサルティングなのかわからないワークショップ形式の研修を担当することがあるが、成功したり失敗したりで、失敗する方が圧倒的に多いというのが正直なところだ。

 

ワークショップ形式の研修で成果を出すには、講師のファシリテーションもさることながら、受講者の能力・意欲が高く、トップが活動に理解を示し、受講者が活動に集中できる環境が保たれている、などいくつかの条件が整う必要がある。私より優秀なコンサルタントでも、成功より失敗の方が多いに違いない。

 

もちろん、ごく稀にでも成功すれば良いではないか、失敗から学ぶところがあるではないか、という意見があろう。しかし、人は負け戦が続くとシュンとなり、勝ち戦を経験すると、より高い目標にチャレンジするようになるものだ。ひと握りの人間が成長し、あとはどうでも良いというのは、研修のあり方として疑問符が付く。

 

結局、研修によって何を目指すのか、という根本的な話しになってくる。研修によって経営改革の成果を目指すのか、受講者の学習・成長を目指すのか。

 

経営改革の成果を目指すなら、研修では能力の低い受講者も混じるので、作業が非効率だ。能力の高い選抜メンバーによるチームを編成し、業務としてコンサルティング・プロジェクトを実施するべきだ。一方、受講者の学習・成長を目指すなら、「当たって砕けろ」式のやり方では大きな学びにならない。成果のあるなしに関わらず学びを得られるようなやり方にするべきだ。

 

つまり、多くのコンサルタントが取り組んでいる「実践的な研修」は、経営改革の成果という点でも、受講者の学習・成長という点でも、何とも中途半端なのだ。

 

ここで「じゃあお前は、何でそういう中途半端なことをやっているのか?」という批判が出てこよう。もちろん、「金のため」という面もなくはないが、それよりも、やり方次第では実践的な研修の場で成果と学習・成長を両立させることができると考えているからだ。

 

私は、ワークショップ形式の研修の場合でも、いきなり成果を目指した活動に入るのではなく、関連する理論・フレームワークを伝授するようにしている。レビンが「良い理論ほど実践的なものはない」と語ったように、しっかりした理論を身に付けると、将来色々な場面で活用できるからだ。そして、成果を目指す活動に入ったら、受講者を谷底から突き落とすようなことをせず、研修の場以外でも活動を地道にフォローする。それでも、経営改革の成果を実現する成功確率は低いのだが、「頑張ったが何も残らなかった」という状態にはならずに済んでいる。

 

「実践的な研修」というと聞こえはいいが、本当に企業の、受講者のプラスになるのかどうか、改めて振り返る必要があるように思う。

 

(日沖健、2014年6月23日)