文春とお付き合いしてわかった意外なこと

縁あって、2022年から文春オンラインに記事を出している。数か月に1度の不定期なので、それ以前から毎月1~3回記事を出している東洋経済オンラインほどは深い付き合いではない。ただ、やはりあの文春、お付き合いすると色々と興味深いことがある。本日は、その一端を紹介しよう。

書き手から見て、他のメディアと比べた文春の最大の特徴は、原稿を提供してから記事掲載までのリードタイムが長いことである。東洋経済の場合、原稿を提供してから数日、長くても1週間以内に記事が掲載される。一方、文春はたいてい2週間以上かかる。3月にも2つの記事を出したのだが(トヨタ・ENEOS)、いずれも2~3週間かかった。

文春と言えば、松本人志氏の件でも水原一平氏の件でも何か大きな出来事があったら翌日に記事を出している通り、スピードが売り物という印象がある。私のビジネス関係の記事は緊急性がないという違いはあるが、それにしても対応が遅い。

なぜこんなに時間がかかるのだろうか。東洋経済の場合、編集者が原稿を確認し、ダメだったらボツ、大丈夫だったらすぐ編集し、掲載する。書き直した上で掲載するということはあまりない。一方、文春は、編集者が記事の内容を関係各部を交えて念入りに確認し、不適切な場合は執筆者に書き直しを求める。

では、関係各部を交えて何を念入りに確認しているかというと、1つは法的な問題、もう1つは炎上である。

法的な問題とは、記事に書かれた個人・企業・団体などから文春が訴えられるリスクがないかどうかだ。たとえば3月の記事の場合、トヨタやENEOSの経営陣に批判的なことを書いたので、法務部門で訴訟のリスクをチェックしたようだ。さすがは、裁判慣れした文春である。

炎上というのは、ちゃんと炎上してPVが伸びるかどうか、ではない。まったく逆で、炎上することがないようリスクを確認する。「喧嘩上等」「炎上大歓迎」というイメージの文春だが、編集部は炎上を極度に嫌っている。編集者から書き手に、「読者を刺激しないように、この部分の表現をマイルドにしてください」といった修正依頼がよく来る。これはまったく意外だ。

ところで、友人・知人から「文春と関わるとお前のブランドが落ちるから、記事を出さない方が良いのでは?」と忠告されることがある。

せっかくの忠告だが、聞き入れるつもりはない。私のブランドなんて落ちることを心配するほど大したものではないというのが大きな理由だが、もう1つ、私は文春が好きで、ささやかながら文春を応援したいと思っているからだ。

政権与党が腐敗しても、今の野党にはそれを糺し、是正する力はない。企業で不祥事が起こっても経営者の自浄作用を期待できない。株主が経営者を引きずり下ろすのも難しい。テレビ・新聞といった大手メディアは、権力に忖度しまくりだ。権力に対するけん制が働きにくい現代日本において、文春など週刊誌と内部告発くらいしかけん制手段は見当たらない。

松本人志氏の件では「(乱暴な報道をする)文春なんて潰してしまえ」という意見を多く見受ける。たしかに文春には改めるべき点も多いが、実際に潰れてしまったら、権力に誰も声を上げられない窮屈な社会になってしまうのではないだろうか。文春には今後も権力をけん制するマスコミ本来の役割を全うし、良い世の中を作ってほしいものである。

 

(2024年4月8日、日沖健)