松本人志さんの件で学ぶ危機管理

ダウンタウン・松本人志さん(以下「松本」)が、週刊文春による性行為強要疑惑報道を受けて芸能活動の休止を発表した。私は松本個人には興味も利害もないし、現在進行形の話なので軽々なことは言えないが、経営コンサルタントとして、企業の危機対応のあり方、とりわけ初期のクライシスコミュニケーションの重要性・難しさを痛感させられた。

今回、松本が所属する吉本興業は、週刊文春が発売された1227日、「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」と記事を強く否定した。

ただ、「一切ない」というのが「女性と会ったという事実はない」のか、「会ったが、性的関係を持ったという事実はない」のか、「性的関係を持ったが、強要したという事実はない」のか、不明だった。そのためマスメディアやSNSなどで様々な憶測を呼んだ。

その後のメディア取材で、松本が女性と会って性的関係を持っていたことがわかった(事件性は不明)。一方、吉本興業からは追加の説明はない。この経緯から、先週、一気に松本と吉本興業への不信感が強まった。

もちろん、憶測はあくまで憶測で、松本が性行為強要をしたと決まったわけではない。今後の裁判に影響を与えるものでもないだろう。

しかし、松本が一転して活動休止を決めたのは、コンプライアンスを重視するCMスポンサー企業が松本の番組起用に難色を示すことを懸念したためである。現実に大損害を被ることになった今回の吉本興業の初期対応は、不適切だったと言わざるを得ない。

ところで、一般の企業でも、従業員の不祥事がマスコミに報道されることがある。そのとき、今回の吉本興業のように、即座に「事実無根」と強く否定するケースがよくある。

これは、どういう心理、どういうロジックだろうか。大きく3つケースがある。

    社内調査を行った結果、事実無根だと判明

    まだ社内調査で事実確認をしていないが、「わが社の従業員がそんな不誠実なことをするはずがない」と判断

    不祥事の事実が確認されたが、「どうせバレないだろう」と判断

このうち①の場合、「事実無根!」とアピールしたいところだが、多数の従業員がプライベートも含めて不祥事が「まったくない」と言い切るのは、かなり困難だ。調査結果を公表し、「疑念を招かないように今後は注意したい」とするくらいが穏当だろう。

日本企業は従業員を大切にするので、②が多いかもしれない。ただ、誠実な従業員でも、魔が差すことはある。経営者が従業員を信じることは大切だが、危機管理では性悪説に立つべきである。「早急に事実確認し、〇週間をめどに調査結果を公表します」とするのが適切だろう。

ご法度なのが③だ。以前なら、社内の出来事はあまり表沙汰にならなかったが、いまは社内事情があることないことSNSに晒される時代だ。「どうせバレないだろう」と考えて傷口を広げるのが、最悪の事態である。誠意を持って謝罪し、今後の対策を約束するべきだ。

もちろん、今回の吉本興業がどれだったかは、部外者の私にはわからない。いずれにせよ、条件反射的に「事実無根」と表明するのは、クライシスコミュニケーションとしては不適切ということである。

今回の件が日本企業がクライシスコミュニケーションを見直すきっかけになることを願っている。

<関連記事を近日中に東洋経済オンラインに公開します>

 

(2024年1月15日、日沖健)