インボイス制度への批判は的外れ

来週10月1日からインボイス制度が始まることを受けて、いま批判が噴出している。ネット掲示板やSNSでは、「インボイス制度の導入を延期せよ」「廃止せよ」という声が溢れている。Change.orgの「STOPインボイス」は46万筆の賛同を集め(923日現在)、日本語版の過去最多を記録した。

インボイス制度には様々な批判があるが、最大の論点は、消費税の免税事業者の売上高が減ってしまうことである。免税事業者が課税事業者に転換せず事業を継続する場合、取引先は仕入税額控除を受けられなくなるので、免税事業者との取引を避けようとする。

たとえば、会社員が接待で免税事業者の飲食店を利用して領収書をもらっても、その領収書では仕入税額控除ができない。たいていの会社は「接待では、適格請求書発行事業者の店を使うように(免税事業者の店は使わないように)」と社員に指示するはずだ。免税事業者の店では、接待需要が激減する。このように、多くの業界で「免税事業者外し」が進むだろう。

ただ、免税事業者がこの危機的な事態を避けるのは簡単だ。免税事業者をやめて、適格請求書発行事業者に移行すれば良い。税務署に書類を1枚提出すれば済む話だ。

にもかかわらず、多くの免税事業者が適格請求書発行事業者への移行を拒み、インボイス制度に反対している。これは、益税を手放したくない、経理事務の負担が増える、という2つの理由からであろう。

1つ目の益税、つまり免税事業者が販売先の企業・消費者から受け取った消費税(仮受消費税)を国に納めず懐に入れてしまうというのは、いかがなものか。税収が減るだけでなく、まじめに消費税を払っている事業者との課税の不公平という点でも、問題だ。

免税事業者の仕組みは、1989年に消費税を導入する際、とにかく零細事業者の反対を抑えようと作った苦肉の策である。今回、インボイス制度の導入で益税の問題がかなり解消されるのは、税制の大きな改善である。

益税がなくなる免税事業者は、むしろ34年にも渡って益税の恩恵を受けてきたことに感謝するべきではないか。インボイス制度に反対するのは、ずっと無銭飲食を許されてきた貧乏客が店から「今後は代金を頂戴します」と言われて、「これまでありがとうございました」と礼を言わず、逆ギレするようなものだ。

もう1つの経理事務負担の増加はどうだろう。私は、1月に適格請求書発行事業者に登録したが、その後お客様から求められて登録番号を連絡したくらいで、今のところ経理事務の負担が増えたという実感はない。

税理士など専門家のサイトには、事務負担の例として「請求書に登録番号を明記する必要がある」「登録番号の確認が必要になる」「インボイスの保存が義務になる」などが挙げられている。いずれも通常の経理事務の範疇で、まともに経理事務をしていない事業者が「やりたくない」と駄々をこねているようにしか見えない。

このように、益税という長年の懸案を解決するインボイス制度は至極真っ当なことで、批判はかなり的外れだと思う。

世の中には、ちゃんと消費税を払い、ちゃんと経理事務をしている事業者もたくさんある。私の周りでもそういうちゃんとした事業者は、インボイス制度を「事業者として当然のことでしょ」と受け止め、インボイス批判を「しょうもないことで騒いでいる」「既得権益にしがみ付いて見苦しい」と冷ややかに見ている。

いまは批判の声ばかりが取り上げられるが、それだけが世論ではない。以上、多数の友達を無くすことを覚悟で書いてみた。

 

(2023年9月25日、日沖健)