エッフェル姉さんとオンライン研修

自民党女性局の38名がフランス海外視察中に撮影した写真を松川るい女性局長がSNSに投稿し(のちに削除)、国民から「ただの観光旅行」「税金の無駄遣い」と批判を浴びている。松川るい女性局長らには、「エッフェル姉さん」という不名誉なあだ名が付いた。

今回、3泊5日の視察中、主目的の研修は6時間だった。という時間の短さに加えて、「研修ならオンラインでできるだろ。わざわざパリにいく必要があるのか」という批判が噴出している。企業研修の講師をしている身として、研修のオンライン化という課題について考えてみたい。

2019年まで、企業研修は施設に集まって対面で開催するのが普通だったが、コロナ禍で2020年からオンライン形式での開催が急増した。2022年からコロナが沈静化したことを受けて、対面形式がかなり復活し、いま多くの企業が対面形式とオンライン形式をどう使い分けるか腐心している。ハイブリッド形式というやり方もある。

オンライン形式のメリットは、①地方・海外など遠隔地からも参加できる、②自宅・シェアオフィスなど自由な場所から参加できる、③参加者の旅費や会場費などがかからず低コスト、などである。

一方、対面形式のメリットは、①グループワークやディスカッションをしやすい、②物理的な操作を伴う学習をしやすい、③受講者同士の雑談・懇親会など相互交流がしやすく、人脈形成が促進される、というところだ。

大雑把に言うと、学びの質はやや低いが、低コストで多くの人が参加しやすいのがオンライン形式、学びの質は高いが、高コストで参加しにくいのが対面形式、ということになる。企業は、多くの従業員が基本的なことを学ぶ場合にはオンライン形式、特定の従業員が発展的なことを学ぶ場合や人脈形成をする場合には対面形式、と使い分ければ良い。

今回の自民党の海外視察は、国会議員が政策立案するにあたって、女性活躍や少子化対策の先進国であるフランスから深く学び、現地の要人と人脈を作ることが目的だろう。とすれば、研修時間の長さや38名という参加人数の是非などはともかくとして、現地を訪問し、対面形式で研修を実施したこと自体は、間違いではない。

では現在、企業ではどう使い分けているのか。

ある大手商社では、かつて営業担当者・事業開発担当者の研修を海外で開催していた。現地での滞在は5日間で、そのうち研修は1日だけ。参加者は、滞在期間中に現地の見込み顧客や政府要人などを訪問し、必ずビジネスチャンスを掴むことが要求された。コストをかけても良いから、それ以上にビジネスを拡大しようという考え方だった。

ところが、コロナ禍でこの研修は中止になった。今年コロナが沈静化したが、社内の「オンラインでも良いのでは」という声が出ており、復活のめどはたっていない。イケイケだったこの商社でも、コロナ禍を経て縮み志向が徐々に蔓延しているようだ。

ましてや、一般の日本企業は、「オンライン形式を優先し、どうしても対応できない場合は対面形式にする」というケースが多い。結局、企業の教育部門や教育担当者は、予算と受講人数で業績を評価される。低コストで多数が受講できるオンライン形式を優先する方が、自身の業績をアピールしやすいのだろう。

「どうせ研修なんて大したことをしていないんだから、コストをかけずにオンライン形式で最低限のことをやろう」というのは、残念な縮み志向だ。「多少コストをかけてでも対面形式でしっかり研修をやって、優れた人材を育成しよう」と考えられないものか。企業の経営者や教育担当者にはしっかり考えてほしい。

国会議員の海外視察に話を戻すと、今年、海外視察が復活し、衆参で5億円の予算が計上された。しかし、5億円はずいぶんショボくないか。個人的には、500億円でも5兆円でも使って、国会議員にはどんどん海外視察に出て、国際的な視野と人脈を広げてほしい。もちろん、それに見合う成果を出すこと、成果を出しているかどうか国民が厳しくチェックすることが絶対条件である。

 

(2023年8月14日、日沖健)