顧問・社外取締役という微妙な存在

コンサルタントの重要な業務に「顧問」がある。クライアントと顧問契約を交わし、経営会議などに出席してアドバイスする業務だ。最近は、社外取締役として活動するケースも増えている。顧問なら月1~2回、顧問先を訪問して月数万円から数十万円、上場企業の社外取締役なら月1度の取締役会に出席して月100万円以上の報酬を得られる。今回は、コンサルタントが顧問・社外取締役をする上での注意事項を2つ紹介しよう。

まず、顧問・社外取締役への需要が増加しているのに伴い、それらを仲介する業者が増えているが、仲介業者には登録しない方が良いだろう。「顧問」の案件を仲介してくれることはまれで、「営業支援」の案件がほとんどだからだ。

私の知人(60代、コンサルタント)は、昨年、「月数回の会社訪問で現役時を超える報酬を」という宣伝文句に惹かれて、ある仲介業者に専門家登録した。そして1年経ったのだが、仲介業者から紹介されるのは、「営業支援」の案件ばかりである。仲介業者と契約している企業から「顧客を紹介してください」という依頼が来て、登録専門家は自身のネットワークから顧客を紹介し、成約したら成功報酬で手数料をもらえるという仕組みだ。

何のことはない、仲介業者は、「顧問」という甘い言葉で顔が広そうなコンサルタントや企業OBをかき集めて、「営業支援」に従事させているのだ。違法ではないものの、「看板に偽りあり」の胡散臭いビジネスである。世間にそんな上手い話が転がっているはずがない。

そもそも、顧問や社外取締役は、「やらせてください!」と自ら手を挙げてやるものだろうか。それまでの仕事ぶりや人間性を評価されて、会社側から「是非お願いします!」と依頼されて始めるのが基本だと思う。

もう1つ、顧問や社外取締役に就任したら、できるだけ仕事をしないようにすると良い。張り切って仕事をすると、相手に迷惑がかかる。

ある物流会社の教育担当者は、社外取締役M氏の“大活躍”を嘆いている。М氏は大学教授で、月1回、取締役会に出席し、毎回「すべての研修で(大学の授業のような)シラバスを作るべきだ」「社内講師を対象にFD研修(Faculty Development、大学の教授陣への研修)を実施するべきだ」と何点か指摘する。社外取締役の指摘を無視できないので、教育担当者は連日大残業してM氏からの宿題に対応している。

M氏はまじめな人で、月1回2時間の取締役会に出席するだけで一回100万円超の報酬を受け取っていることを申し訳なく思っているらしい。何とか会社の役に立とうとするのだが、大学教授に企業経営のことがわかるはずもなく、上記のように「同じ教育だから、大学と同じようにやってはどう?」と頓珍漢な指摘をし、返って企業を混乱に陥れている。会社のことを思うなら、黙って何もしないか、そもそも社外取締役への就任を断るべきだろう。

こうした事例を見ると、顧問や社外取締役という存在に疑問が湧いてくる。顧問・社外取締役は、コンサルタントや企業OBにとっては貴重な収入源だろうが、本当に企業の役に立っているのだろうか、と。

経営者が顧問や社外取締役を起用する理由は様々だが、ある人と二人三脚で本気で経営改革をしたいなら、顧問でなくコンサルタント、社外取締役ではなく社内取締役として起用するはずだ。経営改革のために顧問や社外取締役を起用するとは考えにくい。

経営者が顧問や社外取締役と茶飲み話をして「心の安らぎを得たい」というならマシで、実際には、顧問は「○○さんには義理があるから、顧問にでもなってもらおうか」、社外取締役は「東証が要請しているし、株主もうるさいから、とりあえず起用するか」「著名な○○教授に就任してもらって箔を付けよう」というのが実態だろう。

ちなみに私は、たまに顧問や社外取締役への就任依頼をいただくのだが、丁重にお断りしている。月1回会社を訪問するだけで、高額な報酬に見合う貢献をする自信がないからだ。「いえいえ、社外取締役なんて形だけですから、会社に顔を出してくれれば良いんですよ」と言われるが、M氏と同じようにお金をもらって何もしないというのは憚られる。私も意外とまじめなのだ。

 

(2021年11月15日、日沖健)